あれ?これ読んだことないな。
これが、この本を最初に見た時の感じである。『涙流れるままに』の発売イベントに行ってサイン本を頂き、握手までした、自称?島田荘司ファンとしては、大変お恥ずかしい限りである。
自己弁護のようで大変申し訳ないが、この本が販売されたのが2002年8月、今の仕事を始めて丁度2年目一番忙しい時期だったため発売を知らなかったようだ。言い訳に過ぎないが…
本題に入ると、島田荘司は壮大なトリックばかりが取り上げられるが、そんなことはない。この作品でも、精神的に追い詰められる被害者の心理描写が読んでいる者を同化させるがごとく丁寧に描かれている。
秋吉事件以降、不当な差別に対する被害者の内面的な描写がより鮮烈になったような気がする。
当作品の登場人物のロドニー・ラーヒムに関しても、旧約聖書のジューイッシュに対するエジプト人の迫害の神話の世界から始まり、2次大戦以降に得たはずの安息の地での幸せも父がテロの票的になってしまった事で終わりを告げる。
新たな出発の地として選んだスコットランドの地でも、母親が売春を行うことでしか生き延びていけない不幸へと話が進む。読んでいて正直辛くなる部分もあるがこの描写がより物語に深みを与えている。
もちろん、トリックがないわけではなく、最後には、叙述ミステリ的な手法も含まれていて、トリックの大胆さにも舌を巻く。
今まで、読んでいなかった事を反省させられた。これからも、島田荘司の新作には目が離せない。